第1回 KUFSゼミナールカフェ 開催報告

2014年7月13日のKUFSゼミナールカフェは、南博史さん(京都外国語大学教授/国際文化資料館館長)をお迎えして行われました。南先生のご専門は、縄文時代の考古学。京都外国語大学に来る前は、京都文化博物館の学芸員とし22年間勤務してこられました。今回は、「地域とミュージアム」という題で先生が長年取り組まれてきた「フィールドミュージアム」という考え方を聞くとともに、今取り組んでいるプロジェクトのお話と、今後の展望についてお伺いしました。

お話は長年ご勤務されていた京都文化博物館の話からスタート。南先生は、「京都文化博物館は、地域の皆さんから節操のないミュージアムだと言われていたんですよ」と笑いながら話してくださいました。京都文化博物館の勤務中は、中南米のオルメカヘッドを運んできたり、イギリスの絵画展を企画したりしていたそうです。しかし活動はそれだけにとどまらず、博物館の近くの三条通りの資産が持続できるようなお手伝いをしたり、マンガミュージアムがある地域の町おこしをお手伝いしたりと活発に地域との交流を続けてこられました。その中でも、1000年も前から続く京都を代表するお祭り、祇園祭についても話してくださいました。祇園祭の山鉾が京都文化博物館が面している通りを通っていたこともあったそうで、南先生は、これが街の魅力になっているだけでなく、町づくりにも関係していることが京都の面白いところだと気づくようになり、京都の街全体がミュージアムなのではないかという考えを持ち始めたそうです。これが「フィールドミュージアム」という考え方だと教えてくださいました。

次に、南先生が現在取り組まれている山間地域への支援のお話へと続きました。今は、福井県の越前焼を盛り上げるプロジェクトに関わっていらっしゃるそうです。越前焼を紹介する陶芸館はあるものの、越前焼自体が衰退の一途を辿っており、なんとか道筋を作れないかと模索中。この山間地域には越前焼のほかにも、谷水田が広がっており、若手農家の育成にも力を入れようとしているとのことで、越前焼と水田を包括して、街全体をミュージアムに、つまりフィールドミュージアムにできないかと模索しているそうです。今はこのプロジェクトに学生を連れて行き、学生を町にいれることでどのようなことが起こるのか、「良い悪いを含めて実験中です」と語ってくれました。

今は、大学が所有している国際文化資料館の館長も務めていらっしゃいます。この資料館には、大学の先生方が集めてこられた歴史品、海外の大学間の交流で集まってきた品、特にイスラム関係の資料が多いと言います。大学の歴史を引き継いできたこの資料館は、国際的なミュージアムの委員会であるICOMにも所属。こういった国際的な委員会に大学のミュージアムが登録されているのは日本でも数えるほどしかない、と南先生は指摘しました。日本のミュージアムが国際的な枠になかなか仲間入りをしないのは、「語学の壁が大きいのかなと思うんです。僕も大してできないんですけどね。」と目尻を下げる南先生。しかし、今指導している学生への期待感を示してくれました。「日本の博物館は世界からガラパゴス化しているなんて言われています。ですが、語学を身につけた学芸員が日本の博物館を紹介できる、研究できるようになっていくべきなのです。」と力を込めました。

参加者からの質問の時間では、「地域に入っていくセクターは様々いるけれども、学芸員が地域に入っていくことは、他のセクターが入っていくこととどう違うのか」という質問がでました。それに対して南先生は「地域の人はミュージアムは利害関係から離れていると思っているときが多いため、学芸員はさまざまなセクターと等距離でいられるし、ミュージアムもいい位置にいる」と答えてくださいました。その他には「日本のものづくりは、その技を習得するのに10年、20年とかかり、その技で一生食べて行く前提だと思いますが、それは時代に合っていないですよね。」という意見に深く南先生が納得されるシーンもありました。「フィールドミュージアムという考え方は、地域とミュージアムが繋がるだけではなくて、世界との市場につないでいく人材などもっと包括的に考えなければならないのでは。」という指摘があり、南先生は「フィールドミュージアムがいろんな人をインクルージョンして行くという考え方には賛成です。そこで役割分担が大事だと思います。」と答えていらっしゃいました。

今回は、南先生の学生さんも参加してくださいました。学校で見せる南先生の顔とは違う顔をみることができました、という学生の感想も聞かれました。時間を少々オーバーして終了したにも関わらずすぐに席を立つ参加者は少なく、先生と残って話をしている姿が印象的でした。今は大学の世界に足を踏み入れ、学生の育成に力を入れた取り組みをされているのがとても印象的でした。興味深いお話をしてくださった南先生、お越し下さった参加者の皆様、どうもありがとうございました。

(ホスト:真木まどか)