第2回 KUFSゼミナールカフェ 開催報告

2014年10月4日のKUFSゼミナールカフェは、菅野瑞治也先生(京都外国語大学ドイツ語学科教授)をお迎えして行われました。菅野先生が執筆された『実録 ドイツ語で決闘した日本人』(集英社新書)に書かれている「決闘」をお話の中心に置き、会は進行されました。「できる限り多くの人にドイツ語の文化圏で今でも行われている『決闘』というものをわかっていただくために書いた本なので、かなりわかりやすくなっています」と、菅野先生は強調します。そもそも「決闘」とは何なのか、そして、ドイツ語圏文化の中で『決闘』とは何かといった話題まで、インタビュー形式でお話をお伺いしていきました。

「僕、元々サッカーが好きで、同じクラスの友人に飲みに行こうと誘われたのがきっかけです」と、ドイツに留学されていた菅野先生は、そんなひょんな誘いから、秘密結社と呼ばれる学生の組織に入ることになったそうです。この秘密結社には様々な厳しい規律、例えば、3回の義務の決闘を経なければ正式な会員として認めないことや、女性の出入りは禁止などがあったそうです。そんな厳しい規律とは裏腹に、秘密結社は「自由主義」を貫いていたと語ってくれました。「本当に誰にでも優しいんです。もちろん女性にも。誰でも迎え入れる姿勢は気持ちよかったですね。アジア人は僕だけでしたが、そんなこと関係なく良くしてもらっていました」と振り返っておられました。

当日、菅野先生には、決闘に関連する備品を研究室からわざわざご持参いただきました。決闘と言えば「真剣」。これを語らずには始められません。「これはドイツの友人が日本に送ってくれた真剣ですが、日本の法律上、剣はそのまま税関を通ることができませんので、このように切られてしまったんですね。決闘で使う真剣は、本当に殺傷能力のあるものですからね。皆さん『真剣』に聞いてくださいね」と菅野先生は、錆び付き、税関でバラバラに切られた真剣を持ちながらお話してくださいました。菅野先生が説明の中で「真剣(決闘で使うもの)」と「真剣に(聞く態度)」を掛け合わせたジョークを飛ばした際には、皆さんからは一瞬遅れて、笑いが起こりました。このように、ゼミナールカフェは和やかな雰囲気の笑いが絶えませんでした。

『決闘』は、一見スポーツのように見えますが、勝ち負けがありません。1ラウンドはせいぜい5、6秒で終了。通常の場合、それを25ラウンドこなし、1試合終了となるのがルールだそうです。相手との身体を正面して、胸同士の隙間が約1mの幅になるように立ちます。上半身、首、戦う右手の肘から下は防具で覆われるそうです。左手は腰へ、右手で真剣を持ち振ります。決闘中に、剣を避ける動作をしたり、足を後ろへ引くことは反則となるため、剣を振る右手だけが頼りです。1ラウンド5、6秒でも、真剣の恐さは想像を絶すると先生は語ります。「戦いながら、自分の足が震えるんです。でも相手を見ると、相手の足も震えている。それをみるとなんとなくほっとする感じがしました。」と決闘中の心情を語ります。その後、菅野先生は、参加者の1名の方と共に実際にどのように剣を振るのか、実演してくださいました。実演は、本当の決闘ではないとわかってはいるものの、本当の決闘の瞬間を想像するには生々しく、実演の後には自然と拍手が起こりました。菅野先生は「実は剣を振っている人のほうが安全なときもあります。ですので、決闘を見ているオーディエンスも人たちも本気です。会場の空気は張りつめています。」と決闘が行われる会場に関しても、実際に撮影された会場風景の写真を見せながら説明してくださいました。

後半の質問の時間では、秘密結社を卒業してからも交流は続くのか、就職後も秘密結社の繋がりの強さを感じることがあるか、という質問に対して「確かに、OBとの交流が盛んなので、就職率はいつも120%です。それは結束が強い現れであるとも言えます。私は今でも後輩の応援の意味を含めての献金をしていますし、毎年季節になると仲間からたくさんの手紙やメールがきますよ。毎年OB会というのがあって、在学生と卒業生の交流が行われます。ここで築かれた関係は一生物なんですよね。」と、決闘を通して生まれる一生涯の絆の重みを語ってくださいました。更に、決闘をして一番自分が変わったと思うことは何ですか?という質問に対して、「前よりも、人に優しくなったと思いますよ。」と菅野先生は答えてらっしゃいました。

今回は、インタビュー形式で会が進行されたため、何度も質問をさせていただきました。そういったことも手伝ってか、話の途中でも積極的に参加者の方が質問をしていたのが印象的でした。会が終わってからも、ほとんどの方が席を立たず、決闘に関する備品を触ってみたり、本に関して議論したりする時間となりました。決闘は、一見近寄りがたい文化的習慣でありながらも、なぜか人を惹き付けて止まない未知の習慣であることが、参加者の「知りたい」という意欲を駆り立てたのかもしれません。お話をしてくださった菅野先生、お越し下さった参加者の皆様、どうもありがとうございました。

(ホスト:真木まどか)