第3回 KUFSゼミナールカフェ 開催報告

2014年12月20日のKUFSゼミナールカフェは、中山智子さん(京都外国語大学外国語学部フランス語学科准教授)をお迎えして行われました。17世紀のフランス演劇がご専門の中山先生。特に女性が男性の衣装を着る「異性装」を中心に研究を続けてこられました。ゼミナールカフェの冒頭で、中山先生はどのような経緯で演劇に興味を持ったのか話してくださいました。「地元広島で、小さいころから里神楽の舞台を見ていました。そこで見た鬼のお面の迫力に驚き、舞台でのお面や衣装の力について考え始めたことがきっかけかなと思います。」

フランスの演劇とは一体どのようなものなのか、中山先生はその歴史の流れを始めに説明してくださいました。もともと、フランス演劇の世界では今で言う「女優」という存在はおらず、全ての役柄を男性が演じていたそうです。しかし、イタリアの喜劇の劇団がヨーロッパを巡業。この劇団がフランスへ立ち寄り、フランスにも女優が受け入れられるようになったそうです。

では、フランスの女優たちはどのような役柄に「変装」していたのでしょうか。中山先生は「主に男性の職業ですね。例えば、学者、兵士、裁判官等です。当時、男性と女性の身なりには違いが見られました。例えば、男性は長い髪のかつらをつけ、一方で女性は髪の毛をアップにしていたことが多かった。ですので、図版からもわかる通り、これが女性です」と、当日持参してくださった図版を指差しながら説明をしてくださいました。更に演劇としての「異性装」に興味深い点があると中山先生は続けます。それは、異性装を身にまとうだけで女優さんの話し方や性格までも変えてしまうということ!美しい女性が、一度男性の服を身につけると、美しい他の女性に「男らしいキザな言葉を投げかけた」と中山先生は説明します。実際にどんな言葉だったのか、当日中山先生は台詞を読み上げて見せてくれました。それはそれはウットリするような甘い言葉ばかりでした。

この17世紀に流行した「異性装」も18世紀には、次第に少なくなるということが中山先生の研究で分かったそうです。「お芝居のリアリズムが好まれるようになってきました。今まで純粋に女優さんが男性のような話し方をしていたお芝居から、男性装を身にまとった女優さんの台詞が『剣を持たないと力が出ないわ』などと、言い始めるようになります」と中山先生は説明します。フランスにはもともと「衣装が性をつくる」ということわざまであったそうですが、演劇の中で「衣装が性をつくるわけではないでしょう?」といった台詞が聞かれるほど「女優さんは男性の服装を身につけても女性である」というリアリズムが受け入れられるようになったそうです。異性装が流行した発端の一つとして、「女性が半ズボンを履いて出たほうが綺麗だと思った観客がいた」と中山先生は語り、「17世紀、ルイ14世の肖像画を見て分かるとおり、ハイヒールとストッキングは男性が身につけるものでした。ルイ14世はバレエダンサーでもありましたし」と続けます。足のふくらはぎの部分を半ズボン、ストッキング、ハイヒールで美しく魅せることが、男性の美しさであった背景がある一方で、女性はふんわりと広がったスカートをはいており、足を魅せることは日常では多くなかったといいます。

このような現代の私たちと比べると、「美しさ」の定義に違いがある17世紀フランス演劇「異性装」の世界。中山先生は「女性が男性の服装をすることで女性の美しさが引き立つことはあるでしょうか。いかがでしょう?」と最後にオープンクエスチョンを投げかけてくださいました。参加者の方からは、「女性が普段は魅せないところを壇上の上でなら魅せるという要素が観客を惹き付けたのではないか」という意見が出ました。また、「足が綺麗であることが重要だった!ということなのだろうか」と言った意見が出された時、中山先生は「お芝居の中で、『足が綺麗だ』という台詞があります。洋服を着せる女中さんが『女性でいらっしゃらなかったら、恋に落ちてしまいそう』や、『誘惑されてしまいそう』と男装をしたお芝居のヒロインに声をかけるシーンがあるんです」と教えてくださいました。このように、質問の時間には参加者の方々から自由に発言が飛び交いました。

今回のゼミナールカフェは、これまでと異なる会場、お天気は雨という状況の中で行われました。しかしほぼ予定通りの方々にご参加いただき、中山先生の「異性装」という日常ではなかなか出逢う機会の少ない話題を取り上げ、自由に発言するという時間を作り上げることができました。ジェンダーがあるからこそ生まれる男女それぞれの美しさとは何か、そしてその議論が現代の今まで途切れない要因は何か、とホスト自身も私も場のホストであることを忘れてしまいそうなほど、悶々と考え込んでしまう時間でした。話題提供をしてくださった中山先生、足下の悪い中お越し下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

(ホスト:真木まどか)