第5回 KUFSゼミナールカフェ 開催報告

2015年7月11日に行われた第5回KUFSゼミナールカフェのゲストは、河野弘美先生(京都外国語短期大学キャリア英語科講師)です。文学の修士号、博士号ともにイギリスにて収められた、河野先生。大学院時代は、指導教官の先生の勧めもあり、イギリスの文豪オスカー・ワイルドの母親である、レイディー・ワイルドの研究に取り組んだそうです。今回のゼミナールカフェでは、沢山の視覚的な資料と共に、アイルランドの歴史とレイディー・ワイルドの生き方について丁寧に話してくださいました。

レイディー・ワイルドの生き様を理解するにも知っておきたいのがアイルランドの歴史だと河野先生は話しました。河野先生は、ゼミナールカフェが始まる前から、「皆さんに興味を持ってもらいたくて」と、手作りの視覚資料をテーブルの上で見せてくださいました。アイルランドはイングランドの西側に位置し、1921年に独立国の自由国となります。しかし、独立前はイギリスの植民地と化していました。植民地化した理由の一つにヘンリー八世の存在が立ちはだかります。あの時…ヘンリー八世に息子が誕生していたら…イングランドがプロテスタントに変わることもなく、アイランドに平穏無事な時が流れていたかもしれません。現実は無残にも離婚したい夫ヘンリー八世の力によりイングランドはカトリックを捨て英国国教会を誕生させました。その結果、隣国アイルランドとの対立は徐々に増しアイルランドは完全にイングランドの支配下に収まってしまいました、と説明してくださいました。

アイルランド人の苦労の生活は19世紀まで続いていくといいます。そこで、19世紀にアイルランドでは、「アイルランド人市民に力を!」という声があがり始めました。そこで台頭してきたのは、アイルランドの政治家だったダニエル・オコンネルでした。アイルランドに像もあるほど活躍をした人で、長らく苦労の生活を強いられてきたアイルランドに、権利を授けようと活動していました。19世紀、人民が特に混乱してきたとき、彼がテコ入れをしたのは「ザ・ネイション」というアイルランドの愛国心を象徴する新聞でした。この新聞にレイディー・ワイルドが出会い、物語は始まります。発行人のうちの一人、トマス・デービスのお葬式に参列した時、レイディー・ワイルドはこの新聞に出会いました。レイディー・ワイルドはそれから「スペランザ(「希望」を意味するイタリア語)」というペンネームを使い、「ザ・ネイション」にて詩を書き始めました。こういった新聞が発行された時期と同時に、イギリスでは、産業革命がすでに発展を遂げていました。産業革命の時には、活版印刷の技術と交通網の技術が急激に発達し、様々な産業に多大なる影響を与えました。印刷技術が向上し、交通網が張りめぐらされると、新聞などのメディアが国の隅々にまで届けられることが可能になりました。レイディー・ワイルドがその当時「ザ・ネイション」に、「無知は我々を奴隷にする」とフランス革命を讃える詩や、権力に屈しない内容のエッセイで「イギリス政府を倒しに行きましょう」というその当時では過激な内容を執筆していました。河野先生は、その当時の新聞を見せてくださいました。

河野先生は、レイディー・ワイルドの旦那さんも紹介してくださいました。彼の名前はウィリアム・ワイルド。目と耳のお医者さんでした。厳格な階級社会だったイングランドやアイルランド。レイディー・ワイルドは、中産階級の生まれでしたが、ウィリアムの功績のおかげで、一代限りの貴族階級まで上ります。ウィリアムの生活柄、サロン文化がレイディー・ワイルドの生活にも入ってきます。その時に、様々なパーティーに出席しました。「ザ・ネイション」の裁判事件があってからもレイディー・ワイルドは文筆業から離れることなく、より良い生活を求めてアメリカに渡ったアイルランド人たちに革命のための「資金集めをしなさい」などと、アドバイザー役としてアイルランド人を励まし、愛国心を呼び覚ましていたのです。しかし、事件は起こりました。レイディーの夫がレイプ事件を起こしてしまうのです。それを受けて、レイディー・ワイルドは多額の借家を抱えた男の妻になってしまい、夫の死を契機にすでに大学進学のためにイギリスへ移り住んでいたレイディー・ワイルドの息子オスカー・ワイルドのそばに行くべくロンドンへ旅立ちます。イギリスでオスカー・ワイルドはぐんぐんと実力をつけ、有名な文筆家へと成長していきました。

河野先生は、アングロ・アイリッシュは、アイルランドへの想い入れが強く、どこで生まれようと、アングロ・アイリッシュであれば、常に気持ちはアイルランドをと言えるほど強いものだと教えてくださいました。因みに、イギリス系の血筋だけれども、アイルランドで生まれた人は、アングロ・アイリッシュと呼ばれるのだそうです。レイディー・ワイルドもアングロ・アイリッシュ。

19世紀に多くの移民を輩出したアイリッシュ。世界中に拡散したアイリッシュには優秀な人が多いそうで、ジョン・F・ケネディの祖父さんやウォルト・ディズニーの祖父さんもアイリッシュ。また、アイルランドには4人のノーベル文学賞作家が誕生しているそうです。

今回のゼミナールカフェでは、河野先生が持参してくださった可愛らしい視覚的資料が魅力的でした。参加者の方も楽しみながら、アイルランドの歴史とレイディー・ワイルドの人柄にひきこまれていたようでした。ホストの私は、アイルランドはとても遠い世界だと思っていましたが、今回の河野先生のお話で、アイルランドの歴史がよくわかり、アイルランドをとても身近に感じることができました。レイディー・ワイルドのお話を聞いて、新聞というメディアが人を鼓舞したり、刺激したりする土台になる強さを改めて考える機会となりました。とても活き活きとレイディー・ワイルドについてお話をしてくださった河野先生を見ていて、こちらが嬉しくなりました。足を運んでくださった参加者の皆さん、河野先生、誠にありがとうございました。

(ホスト:真木まどか)