2005年3月31日

溝上慎一・藤田哲也編「心理学者、大学教育への挑戦」

溝上さん@京大高等教育センターからご献本いただきました。ありがとうございます。

心理学者が、大学実践の中で心理学の知見を活かすこと、大学教育実践をどのように研究していくかを明らかにすること、を目指した論考集。実践ベースに書かれていてとても読みやすいし、大学教育に関わるものとして今関心のあるテーマばかりが対象(授業評価、導入教育、主体的な学習)なので、非常に参考になった。

大塚先生は1章で授業評価をどの授業改善につなげていくかについて論じられ、毎回授業評価の実践を事例としてあげている。その上で、自らの実践の中で評定平均値を意味づけていくプロセスを”実践的妥当化”と定義し、このプロセスが重要である(p23)と述べている。授業評価は多く行われているが、教員がこの実践的妥当化を行えれば、授業評価をした意味はここでかなりなしえたのではないか、と思った。

また、主体的な授業作りでは2章のポジショニング技法(溝上さん)、4章のLTD話し合い学習法(安永先生)、導入教育(スタディスキルズ)では3章の動機付けをふまえた光華女子大での実践(藤田さん)、6章のリテラシー教育(西垣先生)とあり、各章にコメント論文もついて、盛りだくさんであった。5章(田中先生)は、自分の興味対象とはちょっと違ったが、考えさせられる内容であった。

このような理論を踏まえた実践ベースの研究がどんどん行われていくべきだし、自分もそうしていきたいと思わせてくれる一冊でした。

2005年3月30日

藤原辰史「ナチス・ドイツの有機農業」

大学のクラブ&学部の後輩である藤原辰史@京都大学人文科学研究所の初単著。私には縁遠い分野であり、的外れな感想になるかもしれないが、記しておくことにする。

個人的には、まず、この書でとりあげられている有機農法のバイオ・ダイナミック農法(BD農法)が、シュタイナーの提唱したものであるということに驚いた。教育分野では聞いたことがあるが、農業などにも通じていたのですね。

ポイントになるのは、自然の循環に人間を位置づけること、この中で農民としてのアイデンティティを高めることにあるのだと感じた。農民としてのアイデンティティについては第5章、第6章などで述べられており、化学肥料を使わずにBD農法に従事することによって土壌への意識が高まり、作業を通じて「自分が農民であることを強く思う」ようになる(p108)、とある。このことによって農業に集中させるとともに、自然との共生を意識させる。

「自然との共生」という考え方そのものは言葉だけ見れば正しいと思えるが、ここでは、自然の循環に重点を置きすぎ、人間の多様性を奪う役割を果たしてしまう。その結果、「人間と動植物の境界」よりも「人種と人種の境界」に太い境界を引き、収容所に”囚人を動物に変える働き”を持たせることになる。これがナチスによって好都合であったわけなのであろう。

上記の理解が正しいかどうかはあやしいが、本の感想としては、当時の文献や手紙などの引用なども多く、かなり詳細に調査されており、とても重厚な印象を受けた。さすがといえる作品であった思う。

知識不足や分野が違うからだと思うが、ちょっと分かりにくいと思ったのは、章によって時代が前後するからかナチ党やダレーのBD農法に対する扱い、考え方の変化を把握し切れなかった部分があった。附録の年表などに対応させておいてくれると把握しやすいのかな、とも感じた。