2007年9月 1日

戈木クレイグヒル滋子「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」

グラウンデッド・セオリーの技法についてまとめられている。とても読みやすく、データの集め方から分析、カテゴリーの関係づけ、理論生成まで、流れもよくわかる。また、グラウンデッド・セオリーで研究するのは、面白そうだけど大変そうだ、ということも理解できる。これは、戈木先生のこれまでの経験に基づいて書かれているため、その真摯さが出ているからかもしれない。

2007年8月30日

久保田賢一「構成主義パラダイムと学習環境デザイン」

構成主義についての解説と、学習環境デザインとの関係について実践をベースに論じられている。

2000年に出版された本なので、後半のICTを活用した学習環境デザインについては、若干古い感じはあるが、構成主義についてはっきりと理解できていない私にとっては、2章、3章はとてもわかりやすく、勉強になった。

この本を読んで、自分のスタンスのこともあり、”パラダイム折衷”をどう行っていくのか、というのが私の今後の課題だろうな、という気がする。

2007年8月23日

松田岳士・原田満里子「eラーニングのためのメンタリング」

eラーニングにおけるメンタリングについてまとめた1冊。青山学院大学のeLPCO(eラーニング人材育成研究センター)での研究がまとめられているのだと思う。

内容はメンタリングの方法から、メンタのマネジメントまで幅広い。実際にeラーニングを行う際に出てくるほとんどの問題に対応していると言えるだろう。ガイドライン例を含めて、作成手順が紹介されており、例を参考にしながら、組織の特性に応じて作成できるようになっているのも利点である。

2007年7月 9日

藤本徹「シリアスゲーム」

ペンシルバニアでシリアスゲームの研究をされている藤本さんが、シリアスゲームについてまとめられた1冊。昨年ED-MEDIAに出たときに、ものすごくゲームの話があるなぁ、と思っていたのだが、この本を読めば納得する。

シリアスゲームは「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」と定義されている。その中で、2つの方向性として、”特定用途のためのゲーム開発”、”既存ゲームの特定用途への利用”が考えられる、としている。(p.19)

その上で、”Virtual U”などを肇とした多数のシリアスゲームの紹介、開発、オンラインゲームへの展開,
IDとの関わり、など幅広く論じられている。

日本ではまだあまり取り上げられていないテーマであり、とても興味深い。

ひそかに同い年なのだが、優秀な研究者がいるということは心強くもあり、ちょっと焦る気持ちもある(笑)。負けないように、がんばりたい。

2007年5月27日

廣瀬通孝編「ヒトと機械のあいだ」

ヒトと機械の関係を、機械の観点(ロボット、特にヒューマノイド)からと、ヒトの観点(福祉工学や神経工学)から考える一冊。

専門家以外のヒトを対象としている(と思われる)ので、平易な説明でとても分かりやすい。また、幅広い専門領域の話題があり、網羅的にヒトと機械のことを考えられる。

また、ライフログやロボットスーツから人工臓器など新しい技術の紹介もあり、体というハードと脳というソフトの問題についても述べられていて、興味深い。

2007年5月18日

鈴木真理子・永田智子編「明日の教師を育てる」

真理子先生、永田さんのインターネットを活用した教科教育法の実践をまとめたもの。まさにティーチングポートフォリオだなぁ、と思って読んでいると「おわりに」にそう書いてあった。そりゃそうだよね(笑)。

クラスメイト、先輩、現職大学院生、分野の専門家、とさまざまな人とのコミュニケーションにより、指導案を改善していくという試み。現職院生や専門家とのコミュニケーションは有用である反面、学生にとって厳しいものになってしまう危険性もある。その時の授業者の役割というのが重要であるよなぁ、ということを再確認した。また、掲示板の分析による知識構築の変容などはとても興味深かった。

研究者として、教職科目担当者として、参考になる1冊です。

2007年5月13日

久保田賢一「ライフワークとしての国際ボランティア」

久保田先生のライフストーリーがつづられた本であり、海外青年協力隊やJICAなどの国際ボランティアについて率直に述べられている。正直、ここまで書いて大丈夫なの?とも思ったけど、これが久保田先生の味なのだろう。

海外ボランティアに行く動機として、役に立ちたいといったものだけではなく、何かチャレンジしてみたいとか、自分探しとかでもいいと書かれている。実際に海外青年協力隊での活動は、私のような素人が想像している「役に立つ実践」がすぐにできるというわけでもない、ということが分かる。さまざまな環境で苦労したり、現地の人たちと関わることで、現地の人たちもボランティアの人たちも学んでいく、ということのようだ。

国際協力に興味のある人にとっては、とても参考になる本だと思う。大学でも機会を見て紹介したい。

2006年3月 9日

渡部信一「ロボット化する子どもたち 「学び」の認知科学」

「学び」を、ロボットの「学び」、障害児の「学び」という視点から考えた本。ロボットを対象にして、人工知能の進歩や停滞から、行動主義心理学、認知心理学、認知科学、状況的学習論というパラダイム変化を説明しており、非常に分かりやすい。理系の人にも、文系の人にも理解しやすいと思う。参考図書として使いたい。

第5章で「教え込み型教育」と「しみ込み型教育」について述べられており、日本で伝統的に行われてきた「しみ込み型教育」について振り返るべきだと指摘している。職人のわざの伝承などはたしかに模倣などから始まる。長年共同生活をしたりすることで、言葉では伝えられないものも伝えられる関係になるともいえる。このような学びは非常に手間もかかるわけだが、うまくいけば効果は高い。教育現場にどう取り入れていくのか、というのが課題といえる。

eラーニングについても言及されている。やや否定的に取り扱っている印象も受けたが、子どもたちにとってのリアリティはどんどん変化しており、高度情報化時代の「学び」とは何かを考えていく必要がある、と言うことだと思う。また、自閉症の子どもにおける「学び」についての部分は知らないことも多く、勉強になった。

渡部先生は東北大学インターネットスクール(ISTU)でお名前は存じていたのだが、こういう研究をされてきたとは知らなかった。

2005年4月16日

吉田文・田口真奈・中原淳「大学eラーニングの経営戦略 成功の条件」

田口さんからご献本いただきました。ありがとうございました。大変勉強になりました。

中心は「技術」「コスト」「教育効果」の3点に注目した5つの大学の事例報告。国立・私立、都市・地方、大規模・小規模、とバランスのとれた大学が選ばれており、参考になる点がちりばめられているところがいい。今、自分の関心のあるのは支援組織作りなので、玉川大学の「コースコンサルティング」能力を持った支援スタッフの充実(p46~p47)、青山学院での企業の専門家と教員との連携、学生・院生の育成(p84~p88)などが興味深かった。

p84に書かれているのだが、海外では、先進的なe-ラーニング授業を実施する場合は1.5コマにカウントされたり、外部研究資金に応じてコマ数を減じるなどの努力が行われているところがあるそうだ。ここまでいかなくても多少の配慮も必要だと思う。現状では、先進的な取組は、「勝手にやっているのだから」といった風潮があり、通常の授業、業務にプラスして行われることが多いのではなかろうか。大学全体で支援する仕組みが必要になると思う。

7章で、”テクノロジーを活用した大学の学習環境”について「①部門のセクショナリズムが横行していたり、②学内の学習システムのイニシアチブをとる組織の不在によって、相互のシステムの存在が不可視になっていることなどから、実現が不可能になっている場合が多い。つまり、多くの場合は、ヒューマンサイドの理由によるというわけである」(p169)とある。まさにその通りだと思う。eラーニングに限ったことではないが、縦割り構造をなんとかして崩し、連携していく必要がある。

また、8章ではMITのOpenCourseWareの組織について詳細に記述されている。出版モデル、リエゾンと呼ばれるマネジメント(?)のスペシャリスト、このリエゾンを卒業生でまわしていくシステム、など非常に勉強になった。

そして、9章の4節で、eラーニング普及の支障となる要因として「教員の無理解・協力体制の欠如」、「コンテンツ作成支援の問題」、「大学全体のIT化やそのための学内体制の構築の弱さ」をあげている。この3点を少しずつ解消していく手立てを考えて、実行できればeラーニングが効果的に運用できるになるのだろう。

2005年1月16日

高橋信「マンガで分かる統計学」

買うときはちょっと恥ずかしいです(苦笑)。しかし、中身はちゃんとしてます。マンガはちょっとで後は説明かな、と思ってましたが、かなりマンガのボリュームが多いです。しかしながら、そのマンガの中で身近な例をとりあげ、代表値や分散、偏差値、分布、相関、検定までの説明を行っています。最後の検定はなかなか大変ですが、それでもこれなら”統計は難しい”と思っていた人も気軽に勉強できそうです。

さすがに教科書には指定できないか(笑)。ただ、シスアドの授業で簡単に統計はやるので、来年はこれを参考にしてみたいと思います。

2005年1月 9日

山田誠二・北村泰彦編「情報社会とデジタルコミュニティ」

第15回教育システム若手の会で紹介されて読んだ本。社会と対象とした人工知能関係の研究がまとめられている。読んで興味があれば論文を読んでみましょう、という感じの本。全般的に興味深い研究が多いし、こういうのやってみたいなぁ、と思う。人間が興味を持っていることなどをいかにデータとして引き出せるか、ということがポイントなのだろうか。ただ、これらの研究が社会で使えるようにするには、また別の視点も必要になってくるのかな、と思う(特にエージェントによる教育など)。

2章ではデジタルミュージアムについて書かれており、これは授業で使えそう。角先生は京大情報学に移られたので、また話を聞く機会があればいいなぁ。

1章はチャンス発見について。ちょうど今回の人工知能学会誌(Vol.20,No.1)も「シナリオ創発」の特集をやっていた(まだ読んでないけど)。読んでも分かりそうでなかなかちゃんと理解できない分野の1つ。面白そうなんだけど。オントロジーもそう。

2004年12月 9日

中川一史「実践的情報教育カイゼン提案」

情報教育の改善のために重要になるポイントをまとめた本。主に初等教育の実践をベースにしているので、現場の教員には参考になるのではないかと思う。私としては、高等教育の実践を考えていく上でも、初等教育のことを勉強しないといけないな、と思っていたので、おさらいにちょうどよかった。

ただ、高等学校の情報教育については、またちょっと別の話かな、という気がしているので、その辺もまた考えていきたい。

2004年9月19日

中原淳編著「ここからはじまる人材育成 ワークプレイスラーニング・デザイン入門」

「企業の人材育成に焦点をあてて、優れた実践を行っている企業の担当者にインタビューをまとめている。本を読んで感心するばかり。教育内容、教材そのものが重要なのは言うまでもないが、学習環境の提供が重要だという印象を強く持った。お互い刺激しあい、学習につながり、認め合える組織になるということはとても重要だと思う。

”あー、あの人もやっていたのだ”、”あの人がやっているのなら、私にも関係するかも…”と思って、やる気になるかもしれませんよね。教育担当者から勉強しませんか、とすすめるのもよいのですが、こうやって学習者同士のナレッジ共有が学ぶきっかけにもつながるのです。(p29)

「誰かに見られている環境づくりというのを一番重視しましたね。」(中略)このシステムの特徴は、同店舗、同法人内であれば、管理者だけではなくすべての利用者が(進捗と成績を)閲覧できるようになっている点にある。(p54)

環境は人に大きな影響を与える。よい組織はよい人材を生み出す力を持っている。その力を作るための「人材育成」の試みは根幹。人材育成に力を入れている企業は、きっとよりよくなろうとしている企業だと思う。そうでなければ、いくら今お金があっても衰退していくだろうし。いきあたりばったりではだめなのだ。もちろん、逆もしかりで、人は環境に影響を与えるし、組織にも影響を与える。やはり人が大事なのだ。

2004年9月 5日

「<家の中>を認知科学する」">野島久雄・原田悦子編「<家の中>を認知科学する」

認知科学者が中心となって<家>や<家庭>を対象に研究した結果や考えをまとめた本。認知科学だけではなく社会学や発達心理学などの観点からの論述もあってかなり面白い。1つの対象で、ある程度分野を絞ってもこれだけの切り口がある、ということを示していると思う。全体的には、情報技術の発展による「家族の情報化」と、家族の「個別化」-「一体化」の関係性を論じているように感じられた。家事を行うための電化製品や携帯電話などの普及によって、個別化が助長されるという懸念はあるが、逆に連帯感を強める方向にも進むことができるということだ。道具は考えを助長するけれど、考えが道具の使い方を決定することもある。コミュニケーションもリッチなほうがいいとは限らない、意味づけるのは使う人間だということを念頭におかないといけない、ということだと思う。

あと、興味深かったのはライオンの渡辺治雄氏が書かれた11章「人にやさしい製品を作る」。洗剤の容器の設計などをする上で、行動観察をしてデータを集めて、より使いやすい製品を作成する、というのは面白かった。製品の内容もそうだが、使い勝手のよさというのは製品販売において重要なファクターですもんね。この話は授業で使えそう。

2004年8月24日

原島博・井口往士監修「感じる・楽しむ・創り出す 感性情報学」

学振の未来開拓学術研究推進事業研究プロジェクト「感性的ヒューマンインターフェイス」の成果をまとめた本。報告書ではなく、インタビュー形式で専門外の人にも読みやすいと思う。個人的には、東大の堀先生の洋服屋の優秀な店員さんを調査した結果に基づいて、関心空間からの新しい発見と販売方略の決定をさぐる研究がとても興味深かった。

よく「バーチャル世界を現実世界に限りなく近づけるなんて」という意見を聞くこともあるが、そのことによって人間の行動などが明らかになることがあるし、他のシステムに応用できる知見が得られることも多い。この本で述べられているような人間のメンタルモデルや感性を研究することによって、いろんなことが見えてくると思う。