中原淳「職場学習論」

今日まで休み、なので、片付けの続きなど、ですね。メールでの仕事は少しやり始めましたが、なかなか乗りきれないままでした。明日から頑張ります。

さて、昨年は日記書かなくなったので、ご献本いただいた本の書評が全然できていません。。。どれも面白い本ばかりなので、少しずつでもやっていきたいと思っています。

11月に発売なので、ずいぶん前になるのですが、中原くん@東大からご献本いただきました。「職場学習論」です。ありがとうございました。遅くなって本当にすいません。。。

ちなみに、先日、大阪梅田の紀伊國屋書店では、このような感じで平積みになってました。すごいですねー。

  



この本は、「職場における人々の学習」にフォーカスをあてた研究成果をまとめたものです。序章にも書かれているのですが、22歳から60歳まで正社員として1日8時間労働を週5日45週間行った場合、「68400時間」もあります。義務教育9年間で14000時間程度ということなので、大学までの16年間でも25000時間程度でしょうから、職場で過ごす時間というのは、ほんとうに長いわけです。

職場でも、さまざまな「学び」がおこっているはずなのですが、学校での「学び」と違うからか、これまであまり研究がなされていなかったのです。大人になると、自分が学ぶという意識が薄れてしまうからかもしれません。

この本では、真摯に「職場での学び」について考え、どのように学びが起こっているのか、を明らかにしようとしています。研究書ではありますが、企業で働いている人にも分かるように心がけて書かれていると思います。

内容もさることながら、この本がすごいと思うのは、読者に、常にリサーチクエスチョンを意識させている、ということです。

1.3でこの本のリサーチクエスチョンを2つあげています。


  • (1)人は職場で、どのような人々から、どのような支援を受けたり、どのようなコミュニケーションを営んだりしながら、業務能力の向上を果たすのか
  • (2)職場における人々の学習を支える他者からの支援やコミュニケーションに影響を与える、職場の組織要因とはどのようなものなのか

そして、ここから下位分割して4つの問いを立て、それを各章で1つ1つ明らかにしていきます。


  • 問1:人は職場のどのような他者から、どのような支援を受けているのだろうか
  • 問2:人は職場においてどのような能力を向上させているのだろうか
  • 問3:どのような他者から、どのような支援をうけている人が、どのような能力向上を果たしているのだろうか。また他者からの支援に影響を与えている職場の組織要因が何かを探索的に明らかにする
  • 問4:職場内のコミュニケーションは、「能力向上」にどのような影響を与えるのか。また、それは職場の風土のどのような影響を受けるのか

2章以降で、これらの問いに対して、質問紙調査の解析結果を中心に答えていきます。分析内容はやや難しいかもしれませんが、ここでインタビュー調査の結果もおりまぜていて、つい「そうそう」と思うような論述になっています。また、各章のはじめとおわりに、問いと結果が分かりやすく書かれていて、振り返りやすくなっていますし、最後の6章でも問いと結果がまとめられており、とても分かりやすくなっています。論文を書く上でも大変参考になりますね。

本の内容ですが、まとめを使わせていただくと、


  • 職場で受ける支援には、「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3種類がある
  • 「業務支援」は上司から、「内省支援」は等しく、「精神支援」は同僚・同期から多く受けている
  • 「精神支援」は上司からは少ない
  • 上司の「精神支援」「内省支援」、上位者・先輩の「内省支援」、同僚・同期の「内省支援」「業務支援」が「能力向上」に資すること
  • 経験談は成功・失敗にかかわらず「能力向上」に資するが、組織レベルの信頼がその効果に影響する

という感じでしょうか。

ここでは、"上司の「精神支援」が「能力向上」に資する"というのは、大変に興味深いし、その通りだよな、と思いました。ただ、上司からの「精神支援」が少ないから、ということにも関わっているのかも(同僚・同期の「業務支援」が「能力向上」に資することもあったので)、という気もしたので、もっとクリアに分かるといいなぁ、と思いました。統計調査なので難しいことは重々承知なのですが。。。

それに関わってですが、この本で一番「ズキッ」ときたのは、p112のインタビューです。男性若手社員の方も、マネージャの方も、本当にそのとおりだと思いましたし、自分も気をつけようと思いました。

「助け合えるかどうか、職場によりますよ。ひどいときには、本当に殺伐としていて、誰がおめーらなんかのことしるか、みたいな。みんなの「が」が強くなって、エゴのかたまりみたいになっちゃう。そういう時は、職場のトップとの距離が遠いです。(後略)」(男性若手社員の語り)
「どんな大変な人がいても、どんなにビジネス環境がかんばしくなくても、マネージャがどう采配するかで職場の雰囲気変わりますよ。その考え次第によっては、食なのメンバーが助け合わないですから、結局、いいものを損なってしまいます。(中略)だいたい職場の問題の6割は、マネージャできまってしまうのではないでしょうか。(後略)」(男性マネージャの方の語り)

私は大学教育の研究に携わっていることもあり、大学に置き換えて考えてしまうのですが、大学教員にも、若手社員の側面から、マネージャの側面まで多種多様です。大学教員としての「学び」ってなんだろう?ということをもっと追求していきたいな、という思いが強くなりました。

とにもかくにも、面白い本なので、興味ある方、ぜひ。

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このページは、村上正行が2011年1月 4日 23:55に書いたブログ記事です。

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