高校訪問は大学教員にとって残酷か?

久しぶりに予定のない日曜日。たまっているお笑いのビデオを見て、必要な買い物をして、考え事をして、英語文献を読んでみて。こんな日がいつも週に1、2日あるといいのだけどなぁ。

さて、少し前の記事になるが、毎日新聞に「特集ワイド:大学教員残酷物語 「高校詣で」も仕事!?」(毎日新聞 '08/9/1)という記事があった。いろいろなブログでも取り上げられていたので、大学業界の方はご存知の方も多いかもしれない。

(前略)  佐藤功さん(仮名)は30歳代の私大准教授。勤務する大学は首都圏にある、いわゆる「中堅大学」。定員割れはないが、大学の立地は悪い。路線バスを利用すると最寄り駅から30分はゆうにかかる。私大生き残りの3要素に当てはまるのは、「総合大学」ということだけだ。

 佐藤さんはこの夏、20校以上の高校を訪問した。首都圏はもちろん、首都圏以外の関東や甲信越、東海地方へも足を運んだ。主に訪ねるのは大学関係者が「固定客」と呼ぶ指定校推薦の高校だ。

 佐藤さんは高校訪問の際、かばんに「訪問マニュアル」を入れている。大学がコンサルタント会社に依頼して数百万円かけて作成した。A4判数ページのマニュアルには「予約の入れ方」「事前準備」「訪問時の注意」などの項目が時系列に並ぶ。「訪問時の注意」には「服装を清潔に保ちましょう」「笑顔で訪問しましょう」など基本的なことが記されている。また「高校の進路指導室に直接出向く前に、受付であいさつすると人脈が広がります」との記載もある。「企業の新人研修みたいですが、大学教員は関係者以外と接する機会が少ないのでマニュアルが必要です」。佐藤さんはこう説明した。

 マニュアルには「予想される質問」の項目もあった。高校の担当者から「最寄り駅からは遠いですね」と大学の弱みを突かれた時はこう答える。「自然に囲まれた落ち着いた空間ですので、学生は勉学に集中でき、伸び伸びと学生生活を送っています」。さらに、他のどの大学が訪問したかを探るため、高校の窓口にある訪問者名簿には目を通す。高校の進路指導室では、他の大学より目立つように大学のポスターを張るよう試みる。いずれも目標が達成できれば、大学への報告書に誇らしげに書くのだという。

(略)

 浜本健太郎さん(仮名)は40歳代の私大准教授。この大学も定員割れはしていない。浜本さんが勤める大学は7月下旬、オープンキャンパスを2日間行った。他の学部には高校生ら約50人が集まったものの、浜本さんの学部のコーナーを訪ねたのはわずか4人だった。1日平均2人。「うちの学部は毎年この程度しか集まりませんよ」。浜本さんは無力感を漂わせた。ここ数年は毎年のことだが、あまりの人の少なさに、模擬講義などを手伝ってくれた現役大学生に申し訳なく思う。

 浜本さんも、もちろん高校訪問をする。予約を入れ、片道2時間かけて自家用車で向かった。ところが、高校の担当者からは「パンフレットを置くだけでいいですよ」と冷たく言われた。滞在時間はわずか10分。追い打ちをかけるように、自家用車のガソリン代も実費精算ではなく、この原油高騰のおり1リットル100円で精算させられている。

 首都圏の佐藤さんは、高校訪問には懸命だった。しかし、東海地方の浜本さんの大学では、近隣の大学も似たような高校訪問をするのでほとんど効果がない。浜本さんの大学を受験する高校生らは、推薦入学で早めに進路を決めるのではなく、一般入試まで「ブランド」「立地」などを満たす大学を目指し続ける傾向にある。受験生を多く集める大学と、少ない大学との「二極化」が進むが、少ない大学では推薦入試でも学生の確保が難しくなってきている。

(後略)

職員系のブログでは、「こんなの残酷ではないだろう」という論調のものも見られた。それも1つの意見かもしれない。ただ、教員としては、この記事にあるように、飛び込み営業的にとりあえず高校を訪問しているような状況では、残酷だろうと思う。これは昨年度の高校訪問の経験でそう思った。おそらくメーカー系企業の開発、研究部門の人間が、企業の生き残りをかけて、突然「飛び込み営業行ってこい」と言われた感じに近いと思うのだが、ほんとにどうしていいのか分らない。

もちろん多くの教員は、大学のために役に立ちたいと思うし、それ以前に大学が潰れたら元も子もないのだし、頑張ってくれる学生に来てもらえればお互いにハッピーなんだし、何かしら努力したいと思っているはずだ。しかし、そのための目的、戦略、戦術がある程度デザインされていないと、関わった人を無気力にしてしまう。正直、私もかなり危うかった(苦笑)。教えること、研究すること、大学のために仕事をすることはできるけれど、そうでないことをするにはかなり心的に負担もかかるのは仕方ない。

確かに大学教員が高校の現状を知らない、といった問題も多い。偏差値の変動にくわえ、大学直結のコース制をもっている、推薦入試を受験させない、といった制度もある。この辺は教員が努力して勉強しないといけない点ではある。それでも、それを高校訪問で学ばせるにはコストパフォーマンスが悪いような気がする。

多くの高校教員も「大学関係者に来てもらっただけでは困る」と感じている現状、高校、大学双方にとっていい方法を考え、実践できるかどうか。そのためには、現状把握、目標設定、戦略策定、実践能力、いろいろ必要な事項も多いが、ここで大学の力があるかどうかが判断できると言えるのかもしれない。幸い、うちの大学は今年は高校訪問を行わないようなのでその面ではよかったのだが、どこの大学も状況をよく判断しないと、大変なことになると思う。改革によりすぎるのもどうかとは思うが、多くの大学は旧態依然。象牙の塔に閉じこもっている時代はとっくに終わっているので、いろんな情報を参考にしながら改善してほしいと思う。

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このページは、村上正行が2008年9月 7日 23:55に書いたブログ記事です。

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